2016年6月29日水曜日

スポーツ心理学の話 Attention(注意)の向け方

僕は分野横断的に色々なことを調べるのが好きなので、色々な分野をつまみぐいして、レースやトレーニングに活かしているわけなのですが(というか、理解できないことはあまりやりたくないタイプ)その中でも今回はスポーツ心理学の話

今回の全日本選手権タイムトライアル並びにロードレースにおいて、メンタルの準備をしっかりしなくてはと例年にも増して思いました。というのも、全日本選手権前3週間ほどにあったTour of Japanの修善寺ステージで大失敗したという反省があります。最初のペースアップで乗り遅れ、いきなりグルペットに入ってしまい、ステージ順位も、総合も、チームとしての動きもできませんでした。その前日の富士山ステージでは全体で17位、脚力的にはどう考えても問題がないはずです。

何より衝撃だったのは、同様に乗り遅れていた新城さんが一回だけ前のグループがみえた瞬間に躊躇なく脚を使いながらブリッジしていき、しかも前で絶妙に立ち回りステージ優勝まで果たしたという事実。単純な登りならTOJ期間中は新城さんと同等以上に走れることは富士山や飯田ステージでわかっていたので、こりゃメンタルだなと思いました。

そこから、あらためて色々調べました。まずとっかかりにしたのは以下の動画

コーチの中田さんの記事でも紹介されています。
痛みに対して前向きな気持ちを持つ、フォーカスを決める、苦痛はポジティブな物だと捉える。。。確かに重要だと思います。他にもビジュアライゼーションをやるとか、典型的なものをひととおり調べました。

しかし、、、結構選手が選手経験を通してやっていることだなとも思いました。専門の人がコーチしながら徹底することにはかなり意味がありそうですが、それほどのリソースもないし。また、学術的な面の裏付けが気になりました。人の心理状態ってものすごく複雑なものだし、ポジティブな気分も、ネガティブな気分もときに役にたつことがありますよね。スポーツ科学はエビデンスを示す実験のデザインがどれもかなり難しく、確かにマイナスではないかもしれないけど、実際に自分が使うには前提条件もよくわからないし、難しいなと思いました。

決定打になったのはMichael Hutchinson氏の本"Faster"でビジュアライゼーションが全くうまく機能しなかったというくだり

Faster: The Obsession, Science and Luck Behind the World's Fastest Cyclists

次にブレークスルーになったのは、この論文。Wigginsがアワーレコードを挑戦したときの心理学的なテクニックが載っています。注目したのはAttentionとMeta-Attentionという考え方。

僕なりに解釈すると、「何に意識を向けるか」と、「何に意識を向けているかを意識できるか」という能力と対象を考えるということ。

Wigginsの場合には全体の戦略と脚の具合、走りそのものだけに意識を向けることでスタート、中盤以降はリラックスすること、バンクのリズムに合わせること、目標ラップに注意を向けます。

重要なことは、このAttentionというか、意識の対象をすばやく切り替え、深く集中し、心がさまよわないある種の筋力のようなものを事前に養っておくこと。

そのためには何をするか?についてはSearch Inside Yourself: The Unexpected Path to Achieving Success, Happiness (and World Peace)が役に立ちました。ざっくりいうと気軽なものでよいので瞑想をたくさんやれということ。必要なときに必要なことだけ考える能力を養っておくこと。

これぐらいシンプルに落としこんでようやく実際に使えるテクニックになりました。




2016年6月28日火曜日

2016年全日本選手権が終わりました

前半戦を締めくくる全日本選手権が6月24−26日の日程で終了しました。各種のメディアで報じられている通り、個人タイムトライアルで2012年以来2度めの優勝、ロードレースでチームメイトである初山選手の優勝に次いで2位という最高の結果で締めくくることができました。応援ありがとうございました。



2016年6月7日火曜日

Tour of Japan 富士山ステージからみるヒルクライムのリアル

Tour of Japan第6ステージは日本で行われるヒルクライムレースで多分一番レベルが高いです。ステージレースの1日なので、それまでのステージで疲労していることを考慮に入れても、総合優勝のかかる重要なステージなので軒並み登れる選手は皆狙ってきます。

先日走ってきて全体で17位、日本人1位でコースレコード(41:45)でした。長い間森本さんの出した42分フラットぐらいの記録が破れなかったので、ようやく一歩進めたかなという気持ちがあります。初めて出た自転車のレースはヒルクライムだったので、少なくともあの日は日本人でヒルクライムが一番速かったなという感慨もあります。一方でまだまだ海外の選手に追いつけていない焦りもあります。

とはいえ、ようやく先頭が見える位置でかなりの時間を過ごすことができたので知見をパワー・ケイデンスデータと共に共有します




1.スタートはあたりまえですが速いです。しかし今回は安定しています。十分なトレーニングを積んでいて、無駄な上げ下げがなければある程度(この場合は中間の馬返し過ぎまで)ついていかないと好記録は厳しいでしょう。ヒルクライムといえどロードレースの要素はあります。20km/hを下回っていても、同じテンポで引いてもらえるチャンスがあれば脚をためられます。とはいえ、加減速は著しく脚を使うので避けたほうが良いです。冷静と情熱の間で身体と対話しましょう。

2.ケイデンスは低いところで60ちょっと、通常で90ぐらい、ちょっと緩いところで100ぐらいといったところでしょうか。こうしろ、というセオリーはありません。楽に速く走れればなんでもよいです。ただし、一番きついところでどれぐらいケイデンスが欲しいかを確認してギヤを決めておかないと当然回せなくなります。今回は34*28まで使いました。(max 20%ぐらいの勾配です)もう少し軽いのがあっても良かったかもしれませんが、特に不足は感じませんでした。

3.記録を求めるなら最後まで淡々と。勝負をかけるなら終盤はロードレースと同じです。ラスト1〜2キロの区間で3回アタックをしています。